【脳髄工場】
著:小林泰三
文庫:312P
出版:角川書店
「玩具修理者」でブイブイ言わせていた小林氏の短編集。
収録されているのは全部で11編。多い。
「脳髄工場」「友達」「停留所まで」「同窓会」「影の国」「声」「C市」「アルデバランから来た男」「綺麗な子」「写真」「タルトはいかが?」以上11編。
今回は、この内から3編を紹介させて頂こうと思います。
【脳髄工場】
表題作です。
先ず、その世界観が独特で引き込まれます。
簡単に説明しますと、世の中から犯罪を無くすべく発明された「人工脳髄」。
コレは怒りだとかそういった感情を抑制する機能を持ち、脳に直接叩き込む事で善人へと変貌させるのです。
犯罪者に取り付ける事から始まり、寧ろ社会的信用が人工脳髄を搭載した元犯罪者の方が一般人より上になってしまいました。
そこから一般家庭にも人工脳髄は普及して行った・・・
という、悪夢の様な世界観。
こんな頭出しの時点でもう嫌でも引き込まれるではないですか。
本作は「自己同一性」に問いを立てるモノと解釈して良いでしょう。
自由意思、自分とは何者か。
感情の抑制は結構な事ですが、それによって私は私ではなくなるのでは?という恐怖を描いています。
主人公は人工脳髄の装着に抗って、自分の存在性を求めて奔走するというメインストーリーは感情移入の余地が大いにあり、恐らく私もそうするに違いないという共感を生みます。
故にこの結末には息を呑まざるを得ませんでした。
また、本作は非常に生々しい。
何がと言えば描写が生々しい。主人公の友人が人工脳髄を装着されるシーン等はそれの最たるモノで何とも生々しく、えげつない名シーンと言えましょう。
脳に直に太い鉄の塊みたいな機械を叩き込むなんて考えるだけで恐ろしい。
そんなストレートな描写は勿論の事、主人公の孤立して行く過程などにしても生々しい。
友人が主人公の世界から消え、恋した女性も消えて行く。
人工脳髄の無い者の孤独を実に生々しく描いているのは素晴らしい。
本作にも健在な普遍性は一読の価値あり。
【友達】
短いながらも良作。
理想の友達を妄想で作り上げた主人公でしたが、その理想の友達がどんどん主人公から独立し始めて、遂には好きな子にまで接近を開始する程に実体を持ち始めるという内容。
これはオチが全て。
予想外過ぎるオチに「おお!?」とビックリしました。
ちょっと江戸川乱歩の様な逆手に取る様なオチの付け方で気持ち良いです。
【C市】
小林節、炸裂。
突如として現れた「C」と呼ばれる存在から世界をどうにか守ろうとする人類の戦いをSF的に描きます。
分かる様で分からないSF理論が展開され、遂に人類は己の意思で成長する巨大な人工生命体を開発。
Cと人工生命体の戦いへ縺れ込むが・・・という内容。
オチを予想出来る人は沢山居るのでしょうが、私は全く読めず。
ラストでまたしても驚かされてしまいました。
うーん・・・面白い!