【「超」怖い話 怪歴】
著:久田樹生
文庫:235P
出版:竹書房
加藤一氏と平山夢明氏から始まった実録怪談小説シリーズの中でも、最もお気に入りの1編です。
形式としては、メインストーリーとなる話数本と小話数本が収録されており、メインは冒頭に体験者に対するインタビューの様子が書かれています。
本書の特徴は、その淡々とした語り口に尽きます。
非常に突き放した視点から文章が綴られており、何とも感情が無い正に記録という感じに仕上がっています。
その視点が絶妙な怖さに繋がっている点は注目したいです。
今回、数ある話の中から3編を紹介させて頂きます。
【かやせの家】
最初を飾る1編。
兎に角、実話らしいのでオチや答えが無い話が多いのが本書の特徴でありますが、これも同じくであります。
始まりはトイレに出て来る老婆の生首。「かやせ」と呟くのですが、それが何を意味するのか、そもそもこの老婆が何者かすら不明。
そして、話はどんどん進展して行き、父親の異変でそれはピークを迎えます。
これが怖いのです。
時折、体験者の父親は苦虫を噛み潰したような顔になって固まる事があるのだとか。
そして、父は仕事を休みがちになり、しかし何処かへ出かけて行く。時には暴れる。
その内に父は衰弱し、死の前日に息子である体験者にある事を打ち明けます。
代々より家長に続いて来た因縁である事。正体はもう誰にも分からない事。そして、柏手の音が聞こえ出し、その音が変わったら用心しないといけないという忠告。
この忠告が個人的には、正体不明の怪異以上に怖く感じました。
何がって意味が分からないからです。
柏手のパン、パンという音が突如として自分にだけ聞こえ、そしてその音が変わったら危ないというどうしようもない感じと意味の不明さが怖い。
我々は理解出来ないモノを恐ろしいと感じる傾向にある様に思えます。
理解出来ないという事は対応が出来ない、即ち死の可能性すら出て来るからでしょうか。
漠然とした不安ほど怖いモノはありません。
そういう恐怖感が決まっているお話ですね。
【メメント・モリ】
ホームレスの3人組の内の1人が語る不気味過ぎる話。
彼等は重度のアルコール中毒で、金も無く酒が買えないので何と墓場に供えられたワンカップ酒を盗み飲みしていたというのです。
先ず、ここの描写が何とも言い難いリアル感に満ちています。
酒の味だの、雨の日で薄まった酒だの、ボウフラ湧いちゃってるけどそれはそれで美味いんだよとかリアル臭い癖にどうでも良い記述がどうも私の心を掴みました。
当然、そんな罰当たりな事をしてたらどうなるか・・・という話で、その締め方も不気味で且つ救えません。
アル中なんてダメですよ、と謎の教訓を得た様な気分です。
【果報】
最強に気分が悪くなる最後の大トリ。
得体の知れない木彫り仏像が一家の手に渡り、それから次々と家族が狂って行く様子が淡々と描かれて行きます。
喧嘩の様子や狂気に陥って行く母を筆頭とした人物の描写が余りにも真に迫っており、非常に不気味。怖いです。
祖父母が、父が、と順々に謎の死を遂げて行き、母は亡くなった祖母の様に木彫り仏像を祀り上げてお祈りを捧げ続けるという、ちょっとした危ない新興宗教ものの様な展開も挟んで来るので、実に胸糞悪し。
ありそう過ぎるじゃないですか、というかあるではないですか。
信仰にどんどん洗脳されて行くなんて事が日常茶飯事、あらゆる所で。
特筆したいのはラスト。
最後に残った主人公の女性が木彫り仏像の怪異に追い詰められ、遂には死んだ筈の家族たちが現れる場面。ここの恐怖は凄い!
読んでて鳥肌が立ちました。
家族が出て来るんだったら良いシーン?とんでもない!
明らかに悪霊と化しており、祖父母や父母の描写が余りにも醜悪で余りにも毒々しいのです。
ここはもう読んで貰うのが早い、異常過ぎる空間をここまで描き切った作者に拍手。
兎に角、怖い。タイトルに偽りなし。
得体の知れない邪悪な恐怖に満ちた短編集です。
体験者たちは今・・・どうしているのだろうか・・・?