玩具修理者

【玩具修理者】
著:小林泰三
文庫:221P
出版:角川文庫


 あの黒い背表紙が激目立つ角川ホラー文庫から出版されている短編小説です。
作者は小林泰三氏。
SFを得意とする作家さんで、その中にクトゥルフ神話や普遍的な怪奇を織り交ぜる独特の内容が特徴的であります。
氏の作品で私が最初に触れた作品がコチラのタイトルで、当時、かなりの衝撃を受けた事を鮮明に記憶しています。
そして、今も尚、私の中で生き続ける作品の1つでもあります。

 収録されているのは、表題作の「玩具修理者」と「酔歩する男」の2編。
特色は違えど、2編とも非常に不気味であり、そして美しく、何より面白い。
先ずは最初に収録されている「玩具修理者」について書き綴って参りましょう。

 ストーリーを単純に説明致しますと、町には玩具修理者と呼ばれる“何でも直す人”がおり、事故で幼い弟を亡くしてしまった姉が親に叱られまいと「弟を修理して貰おう」とする話です。
この時点でヤバい感じがムンムンして来ますが、その感覚は最後まで貫き通されます。

 また、この話は回想形式を取ってまして、2人の男女の女性側が話す昔の話という構成なのですが、最初にコレを持って来るのが上手い。
女性はいつもサングラスをしていて、「その理由」が回想なのです。
嫌でも気になるじゃないですか、冒頭でそんな不自然を叩き付けられたら。読むしか無い。

 かなり淡々とした姉の語り口と、その歪みに歪んだ世界観のギャップが本作には大いに役立っており、特にそれが顕著なのは前半部でしょう。
姉と女性はイコールで結ばれるのですが、彼女が死んでしまった弟が乗った乳母車を押しながら、何処か陰鬱で灰色の空気感が伝わって来る静かな街を彷徨う前半部がギャップの活きる所。

 姉も怪我をしているので段々と体の一部分が崩れて行き、それを更にじわじわとした暑さが追い打ちを掛けて行く地獄みたいな描写が続くのですが、語り口自体は至って冷静。
しかもシンプル。
一切の妥協ない狂気染みた世界を演出し切ってる様に思われます。

 話は何とも言い難い着地点を見せて、どう解釈すれば良いのか、或いはどう反応すれば困るのですが、描いているテーマは明確。
「何処から命で、何処からが命ではないのか」
これに尽きると思います。
終わり方は正にそれに対する皮肉の様にも感じられます。
死んだ後に修理された弟は、姉の要望通りに“修理”されましたが、指定されなかった「用を足す事」や「成長する事」は出来ませんでした。しかし、生きている。

 この命題が本作を面白くしていると断言します。
正体不明の玩具修理者は恐怖の対象ではなく、普遍的な“命への問い掛け”こそが恐怖に繋がっているのが恐ろしいのです。面白いのです。
命は何処に入っているのでしょうか?

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