クージョとウチの犬

 スティーブン=キングの小説で「クージョ」という作品があります。
大きな犬が狂犬病で凶暴になってしまい、飼い主の家族に牙を剥く話なんですが・・・
その綿密なストーリーの組み上げ方と、逼迫した緊張状態の演出が素晴らしい文句なしの名作なのですが、何より心を打たれたのはラストで書かれるクージョについての言及です。

 そのまんま引用してもアレなので、要約して書きますと――
「クージョは良い犬で居ようとしていた」
「男(一家の父)・女(母)・少年(息子)の命令なら何でもするつもりだった」
「死ねと言われれば死ぬ覚悟があった」
「人を殺したいなんて思った事も無い」
「しかし、狂犬病が全てを狂わせた」
「全ては彼の意思ではなかった」
そんな事が最後の最後で語られます。

 また、劇中で少年を襲いそうになって理性で抑えて去る等のシーンもあり、この最後の言及が如何に真実だったかを物語っています。
クージョという中堅の悲哀に胸が締め付けられるのですが、これを引き合いを出したのは犬について語りたくなったからです。

 我が家の犬は、茶と白と黒が混ざった非常に可愛い中型犬ビーグルのメスなのですが、彼女と初めて出会ったのは私が高校生の頃の事です。
突如として家に現れたその犬に随分と驚きましたが、仲良くやって行くぞ!と近寄る事にしました。
そして、噛まれました。
 兎に角、彼女は臆病でそれ故に牙を剥き易い性格で、少し人間不信のきらいが見受けられました。
更に言えば、彼女は活発。食欲も旺盛。頭も余り宜しくなさそうです。
これから一緒にやっていけるのか?と不安になりましたが、その不安はまぁ的中と言えましょう。

 食べる事に対する執着が異常で、食べちゃいけないモノを食べようとした時に「ダメ!」と割り込むと手を噛まれたりなんてのは日常茶飯事で。
私も私で若かったモノですから、彼女が言う事を聞かなければ怒鳴り付けてましたし、それに対して彼女もまた私に吠えるのです。
今にして思えば、それこそ本当に兄と妹の様な感覚なのかもしれません。仲は良いとは言えませんが。

 あれから何年経ったか・・・もう老犬になってしまった彼女は癌の転移で腹水が溜まり、階段を降りる事も出来なくなってしまったので散歩にも行きません。
丸々と太って、面影をそのままに老け込んでしまいました。
ですが、お互いに大人になった様で喧嘩はしませんし、何でしたらすり寄り合って遊ぶ事が多いです。
そしてね、食欲は相変わらず。というかかなり元気なおばあちゃんで私も癒されております。

 狂ってしまったクージョを彼女に被せていましたが、その本質があった様に、彼女もまた我々の最大の友なのだと日々、思うのです。
犬は・・・お犬様は、私達の永遠の友であります。

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