山荘綺談

【山荘綺談】
著:シャーリイ=ジャクスン
文庫:305P
出版:早川書房


 別題は「丘の屋敷」。出版社が違います。
シャーリイ=ジャクスンによる幽霊屋敷モノの傑作であり、記憶が正しければ二度の映画化がなされています。
「たたり」という白黒映画(超名作!)と「ホーンティング」という映画(微妙!)の2本ですね。
何気に1本の小説で2度の映画化は凄いと思うのですが、その辺どうなんでしょうね・・・

 「山荘綺談」のストーリー自体は単純です。
幽霊が出るとして恐れられている誰も近付かない屋敷を調査し、体験談を出版しようと目論んで、参加者を募集します。
結果、参加者は博士を含めて6名。
その中には、母を亡くし家庭内不和に嫌気が差して逃げる様に、企画に参加して来た女性も居ます。彼女こそが本作の主人公で、博士が主人公ではありません。

 本書は幽霊屋敷モノと先程から書いておりますが、その実、その本質は少し違う所にある様です。
確かに幽霊屋敷ではあります。
物が勝手に動いたり、壁に血が垂れたり、夜な夜な足音が爆音で鳴ったり――枚挙に暇が無い位に怪奇現象が頻発します。
でありながら、本作においてそこは飽く迄スパイス・・・もしくは、ある1つを描く為の前提条件でしか無い所が注目すべき所でしょう。

 最後まで読めば、自ずと本書が「孤独な女性の心理」を追求した作品である事は容易に理解出来ます。
主人公の女性は孤独です。行き場がありません。人として立派に誇れる部分もありません。
そんな彼女の心の中に巣食う闇を、これでもかと描いているのです。

 私事になりますが、私は女性を尊敬すると同時に、手に負えない存在だと認識している節があります。
総じて、我々、男性よりも頭が良く、幅広い視点を持っていますが、同時にその感情の揺れ方というのは簡単に型に嵌める事が出来ない様に感じられるのです。
男性が単純ならば、女性は複雑。そんなイメージです。

 そして、本書の主人公の心理も揺れに揺れて、私などではとても想定出来ないのであります。
加えて、その感情の真意を知れば知る程にいよいよ以て、大いに納得すると同時に恐怖すら覚える次第なのです。
 何が言いたいかと言えば、女性心理の描き方が真に迫り過ぎているのです。
表現し辛いのですが・・・納得出来る。それは浅いながら経験則から生まれる感情なのかもしれません。
女性作家が描く女性の姿は、紛れもない女性なのであります。
そこに胸を打たれます。

 恐怖描写について軽く。
本書に「幽霊」という存在は姿を見せません。飽く迄、事象。
それがより一層の恐怖を煽っているのは明確で、「ただ巨人が歩いている様な足音が屋敷内に響き渡り、それが近付いて来る」というファクターに過ぎない部分でも大いに恐がれるのです。

 特筆したいのは、そういった恐怖の演出に解釈の余地を残している所。
本当に幽霊が居たのかもしれない。しかし、居なかったのかもしれないという余地です。
全ては精神を蝕まれて行く主人公の女性の虚妄なのかもしれないのです。
余地・・・これはどんな作品であれ、あって欲しい部分かと私は思います。
少しだけ委ねられたい。そこから世界の広がりは始まるのですから。

 最後に、「共感」に触れましょう。
先に、女性の心理について云々と語りましたが、「だったらそれは女性にしか分からないじゃないか」と思われるかもしれません。
そこは、作者の抜かりない所と言えましょう。男性にも共感の余地は大いにあります。

 その正体は「孤独」。
ただ漠然と孤独を感じる事ってありませんか?私はあります。
時折、ふと孤独を感じて、無性に寂しくなります。
そんな孤独を突き詰めた先が、本書におけるストーリーの過程と結果と思わずには居られません。
人間全ての共通項、孤独という感情が「恐怖そのもの」の正体ではないか・・・なんて読み終えた後にふと感じたのでありました。

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