探偵を捜せ!

【探偵を捜せ!】
著:パット=マガー
文庫:242P
出版:東京創元社


 変則推理小説をここで出してみましょう。
もうタイトルが全てを物語っていますが、詰まり、本書は「探偵が犯人を見つける話」ではなく、「犯人が探偵を見つける話」なのです。
この着想がかなり面白いですね。

 主人公は若妻、遺産目当てに夫を殺害したのは良かったものの、夫は死の前に探偵を呼び寄せていた・・・
山荘を営んでいる事もあって、客が数人やって来るのでその中から探偵を見つけ出して始末しないと自分の身が危ない!
そんな面白過ぎるシチュエーションで展開されます。

 本作品は「のろわれた山荘」という別題を持っておりまして、そのタイトルでも出版されていますが、そちらは簡易版。
かなりシンプルに短く纏められており、コチラが言ってしまえばディレクターズカット版という豆知識もここに記しておきましょう。

 さて、内容の動きは非常にユニークです。
序盤の犯人による夫殺害までのシークエンスは嵐の前の静けさ。
少々、どん暗い気持ちになってしまいますね。
病床の夫の立場もそうでありながら、犯人の生い立ち故に金に対する執着など綿密に設定がなされています。

 客が現れ出してから本番。誰が探偵か分からない!
時には色仕掛けを使ったりしつつ、探偵を炙り出して行く犯人の姿は滑稽でありながら読者たる我々も煙に撒かれてしまいます。
コイツだ!と目星をつけてどんどん殺人を繰り返して行く犯人ですが、その度に「違う!」とどんどん精神的に追い詰められて行く心理も丁寧に描かれているのが非常にグッドです。

 遂には、実は探偵は女なのでは?男みたいな名前なだけで、実は女なのでは?と女性客にも手を出して行く犯人。
「疑心暗鬼」という言葉が全てを象徴する様に物語は展開して行きます。
 流石に犯人に感情移入は出来ないものの、追い詰められた時の精神状態というのは何と無く分かる気がするので、コチラも手に汗握ってしまいます。
それは、どちらかと言えば「探偵!やられないでくれ!コイツを裁いてくれ!」という視点ではあるのですが・・・

 ラストは何だかドラマチック。
山荘を抜け出して、吹雪の中の山で最後の対決を迎えます。
お金掛かった火曜サスペンス観てる気分にならない事もないですが、盛り上げる所は確り盛り上げて来るのがニクいですね。

 それにしても・・・いや、それにしてもですよ。
探偵があんま何もしてない気がするのですが、そこん所はどうでしょ。
割とポンコツじゃないですかね、この探偵!笑えるけど、ダメだろ!

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