【らせん】
著:鈴木光司
文庫:432P
出版:角川文庫
「リング」の続編であり、シリーズの2作目です。
前作はミステリーやホラーというジャンルが適切かと思われますが、本作はSFです。
いえ、まだ辛うじてホラー的な要素はある気がしないでもないですが、SFで良いと思います。
解答編という趣が強く、貞子の目的が明確になり、呪いの正体もどんどん明かされて行くのですが、そこに軸として「感情」を捻じ込んでいるのは上手いなぁと唸るばかり。
主人公は解剖医で、息子を事故で亡くしています。
生きる事に投げやりな彼は、前作の主人公の一角であった教授の司法解剖を担当した事から呪いのビデオを巡る事件に巻き込まれて行くというストーリーです。
私は実はシリーズの中では本作が一番好きで、それが何故かと言えば、この主人公である安藤のキャラクター造形に依る所が大きい様に思われます。
彼は息子を救えなかった負い目から自殺すら考える程に、生きる事に対して執着が非常に薄いです。自責の念に苛まれつつも、人並みに欲望を持つ人間でもあります。
教授の教え子だった高野舞に対する劣情であったり、出会ったばかりの女(それが蘇った貞子だったのだが)と直ぐに肉体関係を結んだりと、自暴自棄を通り越した何かどうしようもない感じが彼には漂っているんですね。
最終的に彼が取る決断も、端的に申しますれば、息子を取り戻す代わりに世界の破滅に手を貸したという事であり、息子と世界を天秤に掛けた人間です。
息子を取る事自体は何も変ではありませんし、そういう「感情」を利用する貞子の悪魔性が際立って非常に宜しいのですが、主人公の心情にはどうも美談と成り得ない側面が感じられます。
彼が息子を愛していたのは間違いないとは思うのですが、端々から感じられる「自身の救済の為」であったり、「妻と寄りを戻したい」といった様な感情が見え隠れします。
貞子や最後に姿を見せる黒幕も十二分に悪魔ですが、主人公も負けない悪魔だと私は感じてしまいます。
そして、それが気に入らないとかではなく、逆に私は本作でそこを最も評価しています。
主人公の等身大の醜さが、本作における最大の恐怖として作用しているから良いのではないでしょうか。
私も多分、本作の主人公と同じなのです。共感し得る所があるのです。
そこが重く圧し掛かり、だからこそ本作が好きだと言えるのかもしれません。
ラストシーンの美しさとヤバさは書き記しておきたいですね。
曇った空の下、海辺で交わされる会話のディストピア感。
主人公と再生した息子はこれから、どんな世界を目の当たりにするだろうという不穏な余韻として提示され、そして驚愕なのは――
小説という表現媒体を利用した圧倒的な恐怖の提示!
これは凄い!ヤバい!そう来たか!とビックリする事間違いナシです。
前作を読んでる事が前提の本作(読んでないと意味が分からない)だからこそ出来た仕掛けです、コレは。やってくれたな!