ループ

【ループ】
著:鈴木光司
文庫:432P
出版:角川文庫


 リングシリーズ3作目。もう完全にSFです。
この飛び具合は凄まじいとしか言い様がないのですが、イメージとしては「マトリックス」とかそういう類の映画に近いと考えて頂ければ先ず間違い無いです。
よくもまぁ、呪いのビデオからここまで来たモノだ!

 前作からの繋がりは序盤では全く分かりません。
いきなり話が飛んだ様に、何処かの一般家庭の様子が少々のエロシティズムと共に描かれます。
 「生命」という概念がストーリーの根底にあるので、そういう“営み”だとかの要素を提示して来るのはいま思えば納得に足ります。
初っ端からそういう描写や、小難しい理論的な話が展開されますが、コレが意外に面白い。
そういう考え方もあるのか的な面白さがあって、単純に知識欲というか好奇心の様なモノがくすぐられる感覚です。

 もう書いてしまいますが、というかここを書かないと何も語れないので書いてしまいます。
「リング」と「らせん」の世界は仮想世界で、本書「ループ」での世界こそ現実の世界というトンデモ過ぎる前提があります。最初はかなりビックリしました。
 プログラムで作られた仮想の世界で起きていた事が今までの事であり、貞子とはバグ。もっと言えばコンピューターウイルスの様な存在であったのです。
ここで「ふざけるな!」と言って本を閉じた人は居るのでしょうか・・・?
居ても不思議ではないのですが、何だか居ない気もするのですよね。
トンデモ過ぎますが、そこへと引き込んで行く力強さが本作にはあるんです。

 転移性ヒトガンウイルスという病気が蔓延し、それをどうにかしようという主題が仮想世界におけるウイルスとの戦いがリンクし始めるストーリーテリングは巧みで、外連味たっぷりで描かれています。この流れる様なテンポ感は読んでて辛く無いです。

 ただ、どうしても鈴木氏の描く男女関係は生々しい。
「リング」では貞子と父の関係、「らせん」では主人公の安藤や高野・貞子といった関係性、「ループ」では主人公と子持ちの人妻。
 ショッキングなのは、闘病中の子供が治療されている間に主人公と人妻が欲望マックスで関係を持ち、それを見ていた子供が絶望から投身自殺を遂げるくだり。
必要な箇所ですが、何が悲しくてこんな胸糞悪すぎる話を読まなければいけないんだ、なんて思ってしまったり。

 しかし、それこそ感動というやつです。
感情が動くから感動。何も涙するだけが感動ではありません。
それだけのパワーが鈴木氏の作品にはあって、それは確かに文章力と表現力によって支えられている事が良く分かります。

 終わり方はかなり綺麗です。
この後も「エス」や「タイド」といった続編が出されましたが、シリーズはここで完結で良かったのではないだろうかと思います。
ささやかながら僅かな希望を提示し、多くの人が救われたに違いないであろうと想起させるラストは文句なしです。読後感もスッキリ。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です