人間椅子/江戸川乱歩ベストセレクション1

【人間椅子/江戸川乱歩ベストセレクション1】
著:江戸川乱歩
文庫:213P
出版:角川文庫


 私は、江戸川乱歩のファンです。
どれもこれもが面白い。面白過ぎるのです。
どんな人生を歩めばこんな発想が?このアイデアは一体?この文章力は?
特に乱歩の短編は、短編ながら多彩なアイデアと尾を引く余韻が非常に心地よく、何度も読み返したくなる様な魅力があります。

 本書に収録されている話は8編。
「人間椅子」「目羅博士の不思議な犯罪」「断崖」「妻に失恋した男」「お勢登場」「二癈人」「鏡地獄」「押絵と旅する男」が収録されています。
どれも秀逸で、生々しい人間生理を抉る話が揃っていますが、ここでは特に気に入っている4編を紹介したいと思います。


 【人間椅子】

 変態モノですねぇ。(詠嘆)
女流作家の下に届いた1通の手紙。その内容を追って話は展開して行きます。
家具職人の男が書いたらしいその告白は、ある女性を愛したが故にその人の下へ届ける椅子に潜り込んだ自身のモノ。
その告白は次第に真実味を帯び、女流作家をも恐怖のどん底へ叩き落して行く・・・

 奇想天外、奇天烈過ぎる発想!
人間椅子とはよくもまぁ思い付いたモノだと嘆息ばかりが出ます。
短く、それでいて鋭くまとまっており、女流作家の「もしや」という不安がコチラにも漂って来るリアリティは最高です。

 何より、やはりそのオチのパンチが効いています。
ここで書くのは不躾というモノですので是非に未読の方には読んで頂きたい。
やられた!ってなるやもしれませんよ。私はなりました。


 【二癈人

 余りこの話が取り上げられているのを見掛けませんが、個人的には傑作だと思っています。
男2人の会話、その一方が切り出した過去の身の上話を回想するという内容。
詰まる所、その男が夢遊病に悩まされ、遂には人まで殺めてしまった・・・というモノなのですが、そこからの展開に驚愕。

 ちょっとしたサスペンスもの、それもかなり短い話でありながら「ああ!!」と叫ばずにはいられないオチとその前振りは見事。
有り触れた、使い古されたテーマやトリックの裏をかいて描くのが得意な江戸川乱歩の手腕が遺憾無く発揮されている作品です。


【鏡地獄】

 鏡大好きマンが全面鏡で覆われた球体の中に入る話。
既に正気ではないストーリー説明ですが、本当に大体そんな話なのだから仕方がありません。

 レンズや鏡好きが度を超した男が最後にこしらえた鏡の球体の中を想像させる文章力、そして否が応でも伝達してしまう危険な香り。
“狂気”の1つの形が明確に描かれた不気味な1編です。
オチもさもありなんといったモノですが、兎に角、描写力が凄まじい。


【押絵と旅する男】

 これは少々、切ない。
美しい女性と老人が描かれた押絵と旅する男に出会った私。
その老人が語る不思議な押絵との話がメインです。

 この話は今でも十分に通用する内容でしょう。
二次元と三次元の境目というやつです。
今やバーチャルのアイドルなんて出て来てますし、それに恋する人が居ても最早、不思議でもなんでもありません。
 そんな1つの純愛の形を真っ向から描き、そして毒を混ぜ込んだ怪作。

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