【屍鬼】
著:小野不由美
文庫:2563P(5巻合計)
出版:新潮文庫
ページ数に目玉が飛び出そうですが、コレは5巻全てを合計した数字です。
1冊でこのページ数だと手に持つ事自体が至難の業なので・・・って、そんな話はどうでも良いのです。
屍鬼、和製の吸血鬼モノで御座います。
1つの村で始まる変死事件、それは拡大して行き、謎の伝染病では?という話に始まり、次第に死んだ筈の人が歩いてるのを見ただの「起き上がり」の噂に連結して行く。
知らない内に吸血鬼こと屍鬼に乗っ取られて行く村に明日はあるのか!?
・・・そんな話です。
先ず、記憶では分厚い1巻は殆どを村の描写に留めていたと思います。
村はどういう場所で、どういう人たちが住んでいて・・・というのが変死事件と共にかなりゆったり綴られて行くのです。
ここでギブアップする人は正直、多いのではないかなぁなんて勘繰ってしまう位には綿密。スローペース。
登場するキャラクターもこれまた多くて、誰が誰やらってなります。
読んでたら覚えますし、1巻で出て来るキャラクター全員が最後にはそれぞれ結末があるのでここは絶対に必要ですが、いやしかし入り辛いのは否めません。
途中で入って来る劇中劇、僧の室井が執筆してる小説も小難しくて、またそこが敷居を高くしてる気がしないでもないですね。
ここは屍鬼の悲哀に通ずる部分でもあるので、これまた必要な部分である事に疑いの余地はありませんが、それでもここに来ると「ここか・・・」みたいな気持ちになったりもしていました。
それぞれに思いがあり、葛藤があり。
そんな中で伝染病から話は屍鬼との対決にシフトして行くのですが、ここからが面白い!
今まで引っ張って来た部分をガンガン回収しつつ、悪趣味に、切なく美しく、無慈悲に展開させて行くこの手腕たるや。
「絶対に生き残るな・・・主人公ぽいし・・・」とか思ってたキャラクターも中盤で呆気無く屍鬼にやられてしまったりと意表も突いて来ます。
群像劇の強みですね、主人公の入れ代わりは。
収束して行く終盤は筆舌し難い凄まじさ。
ここまで存分に積み上げただけあって、それが崩壊して行く虚しさと壮絶さは一読の価値あり。
しかし、ここで提示されるのは「屍鬼は悪なのか?」という答えの出しようのない命題であります。
彼等は好きで屍鬼になった訳ではなく、始祖の吸血鬼から生まれた犠牲者であり、生きて行く為に、死にたくないが為に人を襲うのです。
この悲哀を前提に、終盤では人間と屍鬼で立場が逆転します。見事な構成。
誰が正しかったのか?誰が勝ったのか?
そんなどうにもならない疑問を残して幕を閉じる本作、確実に読んだ者の心に何かを植え付ける作品である事は間違いありません。
最初が退屈だと忌避する事なかれ、名作である。