【ペット・セマタリー】
著:スティーヴン=キング
文庫:731P(上下巻合計)
出版:文藝春秋
アメリカを代表するヤバい作家・スティーヴン=キングの代表作の1つ。
田舎に引っ越して来た家族が遭遇する得体の知れない恐怖を描いた作品で、それは近所にある「ペット・セメタリー(ペットの墓地)」に起因するモノでありました。
尚、題が「セマタリー」となっていますが、コレは別に誤字ではなく、その墓地の看板に書かれた文字がスペルミスを起こしているという設定からです。
スペルミスを強調する事で、「そこ」を限定的にしているのですね。只のペットの墓地ではありません。
概要を述べますと、その墓地の更に奥には聖域が存在し、そこに死んでしまったモノを埋めると生き返って来るという原理・原則が存在しているのです。
しかし、生き返ったモノは生前と同じ姿をしつつも中身は全くの別物、凶暴にして惨忍な怪物となってしまっています。
という前提を知っていながら、死によって引き離された家族を取り戻そうとしてしまう悲劇の愛を描いた作品。どうです、面白そうでしょう。
最初は猫から始まります。
引っ越した家に面する道路は、ひっきりなしにトラックが走っており、長女の飼い猫がその犠牲になってしまうのです。
父としては娘を悲しませたくない一心から、ペット・セメタリーに猫を埋葬します。
そうして、悲劇は連なり今度はまだ幼い長男が事故死。
父の悲しみは深く深く、そして禁忌に再び手を出してしまう。
本書は上下巻のボリュームとなっており、結構な分量になっています。
そして、ちょっとそれが活きているかと言えば微妙な所でして、割とどうでも良い部分を事細かに描いていたりとテンポ感は余り宜しくない様に思われます。
そういう部分はあるにはあるのですが、それを差し引いても重い上に「どうかしてる」でつっぱねられない同情の余地から来る愚かな悲劇に胸を打たれるストーリーは絶品。
情です。ここが肝。
大事な者を失う悲しみ。誰かが誰かを想うという美徳が悲劇へと直結するのだから性質が悪い。
ペット・セメタリーという土地は、善良なる感情を食い物にする事より悪なのです。
そういう類の「どうしようもない邪悪さ」なので、本書を読む中での恐怖の対象はかなり曖昧。
いわば違和感と言い換える事も出来るかもしれません。
次第に狂って行く日常、美徳を穢される嫌悪感が本書における恐怖であります。
ラストも最悪(敢えて最悪と記す)です。
どうすれば、こんな気分が落ち込む終わり方になるのか。正気を疑う様な邪悪さ。
少々の冗長さは感じるものの、このテーマ性・悲劇性・邪悪性やそれを描き切る作者の圧倒的なパワーに胸を詰まらせる物語。