【リング】
著:鈴木光司
文庫:331P
出版:角川文庫
日本を代表するホラークイーン「山村貞子」が初登場した記念碑的作品です。
このシリーズ、映画の様にホラーかと言えば、実はそうでもなくてどちらかと言えばミステリーとSFが上手い具合に融合した作品群なのです。
貞子も悪霊とかそういうのよりは、哀しき過去を背負った邪悪なプログラムという様な造形で、映画とは一味も二味も違った魅力が楽しめます。
本書はシリーズの第1弾で、この頃はまだ辛うじてホラー的な要素は生きています。
4人の若者が同時刻に心臓麻痺で死亡し、その事件を追う主人公と知り合いの大学教授の姿を描いています。
心臓麻痺の原因は「呪いのビデオ」であり、それを作ったのが貞子という25年前に既に死亡している人物である訳ですが、作中の殆どはこの呪いのビデオの解析に費やされています。
ここが本書の非常にユニークな点で、割と科学的なアプローチでビデオの解析が主人公と教授によって行われて行きます。
その肝心のビデオのビジュアルもよくぞ思い付いた、という一種の驚きに繋がり、例えば賽に振られるサイコロであったり、人々の非難の声と数々の顔であったり、謎の老婆や胎児であったりと枚挙に暇が無いおぞましい描写で想像力を掻き立てられます。
解明がここでの肝でありまして、例えばビデオに映っていた山は何処だ?とか、老婆が発した言葉はどういう意味で何処の方言だ?とか・・・
特に面白い着眼点に思えたのは、ビデオに度々入る暗転の様な部分。
これを教授は「人の瞬きではないか」と推測しますが、ここから超能力(念写)という概念を自然な形で織り込ませるのは綺麗。
タイムリミットがあるのも「そうでなくては」という所。
7日という制限時間があるからこそ、ビデオの解明で出て来た場所を巡って、呪いを解く方法を探るもどかしさに味が出ます。
主人公自身の命、その妻と息子の命、教授の命が掛かっているからこそ重圧や緊張感が演出されるので、タイムリミットに対する主人公の苛立ちは我々の共感する所であり、また恐怖を感じる所である様に思われます。
色んな事実が明らかになって行きますが、特筆したいのはラストの井戸におけるワンエピソード。
巡り巡って灯台下暗しな舞台に戻って来るのがニクいのですが、その場所の地下にあった古井戸はかなり印象的で、本作を象徴するかの様な仄暗さ。
井戸の底で只管に水をくみ上げ、貞子の遺体を引き揚げて呪いを解こうとするのですが、タイムリミットは目前の上に場所が場所ですからね。
ここの尋常では無い薄気味の悪さと緊張感は凄いです。
オチにしても、一抹のやりきれなさを残します。
であると同時に、貞子が本物の悪魔の様に感じられ、じわりとした恐怖を覚えるのであります。